仙台高等裁判所 昭和24年(ネ)220号 判決
控訴代理人は「原判決中訴却下の部分を除きその他を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和二十二年十一月二十八日附岩手県指令農地第三一七七号を以てした農地の賃貸借の解約を許可せずとの行政処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、「控訴人は昭和二十二年七月十日被控訴人に対し本件農地賃貸借の解約許可申請をしたところ、被控訴人は同年十一月二十八日岩手県農地指令第三一七七号を以て不許可処分をしたのである」と附演し、被控訴代理人において、「右事実は認める。なお訴外堰合清次郎の家族数及びその中農耕に従事する人数が控訴人主張のとおりであることは争わないが、同人の耕作農地の面積は本件農地を含めて一町四反六畝十二歩である」と述べた外、原判決事実摘示と同じであるから、ここにこれを引用する。(証拠省略)
三、理 由
控訴人がその所有に係る岩手県岩手郡滝沢村大字大沢第九地割十三番地の二田一反七畝歩を訴外堰合清次郎に賃貸小作させてきたが、昭和二十二年七月十日被控訴人に対し右農地賃貸借の解約許可を申請し、これにつき被控訴人が同年十一月二十八日岩手県指令農地第三一七七号を以て不許可処分をしたことは当事者間に争がない。
而して控訴人が右不許可処分を違法なりとする理由は、控訴人現住の宅地は排水の便が悪く不衛生であることや交通上の不便等のため、右農地を宅地に改変しそこに住居を移転しようと企てていること、しかも右農地を取上げても堰合清次郎の生活には何等支障がないこと等からみて右農地の賃貸借解約について正当な事由があるというに外ならないのであるが、成立に争のない乙第二号証、同第四号証、同第六、七号証、原審証人鏡都夫、斎藤次郎、三上喜太郎、原審及び当審証人堰合清次郎の各証言、原審及び当審における検証の結果を綜合すれば、元来控訴人の住む大沢部落一帯は西方の山麓から東方に向い緩い傾斜を示している土地であるが、一般に地下水の位置が高く湿地帯であること、控訴人の現住する宅地もその西側の田地は宅地より約一尺位高く、東側の田地は約一尺位低く南北の田地の畦畔は略右宅地と同一高さであるが、このような状態は単に控訴人の宅地のみならず、附近一帯の宅地は何れも略同様の状態にあること、控訴人が堰合清次郎に賃貸している本件農地は控訴人の現住宅地の北東方約二町の場所であつて、現住宅地よりも低位置でありその土地の状況もその東側が幹線道路に接する外(本件農地の道路に接する部分は路面よりも約一尺三寸位低く西方に向つて順次高くなつている)控訴人の現住宅地とさしたる変りはないこと、右のように控訴人現在の宅地は湿地帯ではあるが、附近一帯に東方に向つて緩傾斜をなした土地で排水の便がさまで悪いとは認め難いし降雨の際控訴人方の便所に浸水し汚物が排水路に流れ込むような心配があるとすれば、それは便所の施設が不備なためであつて、これを改善することによつて防止し得なくはない状態にあること、控訴人方からその南にある道路に達する長さ約八間の通路は幅約三尺五寸であるが多少の手入を施すことによつて裕にリヤカーが通ずる程度に改修することは必ずしも困難ではないこと、以上の事実が認められ、また成立に争のない甲第三号証、原審及び当審証人堰合清次郎の証言によれば、堰合清次郎は約四十年以上も前から本件農地を耕作してきたもので、同人の耕作田地は合計約九反七畝歩(畑を合せて約一町六反歩位)であるが、その中には不良田が多く、本件農地が最良の田地でこれを失うと同人の営農上に支障を及ぼすため、同人は控訴人の本件農地の返還要求に応じなかつたこと、なお控訴人の右訴外人に対する代替田地提供の申出も何等具体的のものではなかつたことが認められる。原審証人堰合波吉、堰合正一郎の証言中上記認定に牴触する部分は採用し難く、その他控訴人の全立証によつても上記認定を左右するに足りない。
上記認定の事実関係に徴すると、本件農地はもともと四囲の状況からみてその使用目的を宅地に変更することを相当と認め得る土地柄でないと同時に、控訴人現住の宅地の状況からみて、本件農地を小作人から取上げてまでそこに宅地を移さなければならないほどの事情にあるものとは到底認められず、結局本件農地の賃貸借を解約するにつき正当の事由があるものとは認め難い。
要するに被控訴人が控訴人の前記許可申請につき不許可処分をしたのは相当でこれを違法なりとする控訴人の主張は採用できない。控訴人の請求を排斥した原判決は相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 猪狩真泰 佐々木次雄)
原審判決の主文および事実
一、主 文
本件原告の被告に対する申請を許可すとの処分を求むる原告訴は之を却下する。
原告其の余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対する昭和二十二年十一月二十日附岩手県指令農地第三一七七号の許可を為さずとの行政処分は之を取消す。被告は原告に対し昭和二十二年七月十日附農地調整法施行規則第三条第一項の規定による申請の件は許可すとの処分を為すべし。訴訟費用は被告の負担とす。」との判決を求め其の請求原因として、原告は其の所有の岩手郡滝沢村大字大沢第九地割十三番の二田一反七畝歩を大正二年頃から訴外堰合清次郎に賃貸してあつたが原告は今回右水田を宅地に変更すべく右清次郎に交渉し、且村農地委員に申請し其の承諾を得た。原告の宅地は排水の便惡しく且隣接地は水田で而も宅地から二尺も地盤高く降雨多きときは何時も宅地並に屋内に侵水し、家屋内は濕気満ち且右侵水は原告家便所に流込み右便所北側の排水路に汚物と共に流込み右排水路の水は原告方附近の住家の飮料に供する用水路に合流し右住家の右用水使用を不能ならせておる。加うるに右宅地に通ずる門口の道は幅員甚だ狹少でリヤカー、馬車等の通行不能、而も道の左右は全部他人の土地で之が拡張の余地がない。従つて多年宅地の移轉を企図し居たもので今回右計画を実行せんとするものである。訴外堰合清次郎は現在は耕地一町六反歩を耕作し家族十人農耕者三名である。従つて右訴外人は本件土地一反七畝歩を返還するも生活に何等困難を生ずる虞はない。殊に原告は之に対し換地一反歩を提供せんとするもので結局七畝歩の取上げとなる。然るに被告は右事実を顧みず、原告の本件土地取上を許可しないものである。故に右不許可処分の取消を求め且許可を受け度く本訴に及ぶ旨陳述した。(立証省略)
被告訴訟代理人は原告請求棄却の判決を求め、答弁として、原告が本件土地を訴外堰合清次郎に賃貸して居た事実は認めるが、訴外堰合清次郎に於て本件耕地を原告に返還すると自作農として生計を維持することが出來ない。原告が本件水田を宅地に変更すべく村農地委員に申請しその承認を得たること及原告の宅地の状態が原告主張の様であるとのことは不知である。被告は本件土地は地主である原告に返還すべき正当の理由がないものとして之を許可しなかつたものであり、本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)